「SMILEcoみやぎ」について

SMILEcoみやぎプロジェクトを終えて

山本 秀雄

事業プロデューサー

山本 秀雄

東北大学 特任教授
未来科学技術共同研究センター

 2011年に発生した東日本大震災後の停電経験から再生可能エネルギーを利用する自立分散型エネルギーの重要性が高まりました。また最近ではカーボンニュートラル社会実現が世界的な重要課題になってきています。これらの解決には再生可能エネルギーを利用できる蓄電地およびその利用技術がキーテクノロジーになります。また東北圏では人口減少が進んでおり地域の産業振興も大きな課題になっています。SMILEcoみやぎプロジェクトは、マンガン系正極リチウムイオン電池(以下、「Mn系Li電池」と称す)およびMn系Li電池のアプリケーション製品を量産し社会実装することを通して、持続的で災害に強い社会、カーボンニュートラル社会の実現に寄与し、併せて地域で新事業を創出することを目的に取組みを進めて参りました。

 主要な成果として、地元石巻市の株式会社I・D・Fの協力によりMn系Li電池の量産工場を立ち上げることができ、東北圏内のNITTOKU株式会社や地域企業様の協力により当蓄電池を用いた特徴ある応用製品を開発でき社会実装も進んでいます。また、蓄電池の評価技術から生まれた超微量粘度計を製品化し大学発ベンチャーSMILEco計測株式会社にて事業化することができました。ハイレベルの蓄電池評価技術がMn系Li電池の性能アップに寄与したことも大きな成果です。プロジェクトの共同運営者である宮城県におかれましては、経済商工観光部、産業技術総合センターおよびみやぎ産業支援機構により、製品開発への支援や事業推進へのアドバイス、支援など多岐に渡る協力を頂き連携体制で取組むことができました。

 Mn系Li電池の特徴として-20℃という低温でも充放電可能で且つ小型の太陽光発電パネルと相性が良いことが挙げられ、特に東北圏、北海道圏の寒冷地における太陽光発電利用用途に適しています。この特徴を活かした応用製品の一つとして有機米デザイン株式会社の「アイガモロボット」が挙げられます。除草剤を使わずに太陽光発電を蓄電して動力源に用い水田雑草を抑制するもので、自然に優しくまた除草の手間を最小化し高齢農業従事者にも優しく、当蓄電池の社会実装により持続可能な農業に貢献する社会的インパクトの大きいアプリケーションと言えます。 当蓄電池の前記例のみならず超微量粘度計においても用途探索、市場探索活動を通して多くの企業様と連携体制を形成することが出来ました。プロジェクト推進を通して地域企業、県、大学による「産官学連携体制」が形成され有機的に作用していることを実感しており、この成果は今後SMILEcoみやぎ協議会に引き継がれ現実的な地域イノベーション・エコシステム形成に結実していくものと期待しています。

 Mn系Li電池も超微量粘度計も事業化をスタートすることができましたが、いずれも端緒に就いたばかりであり、今後事業が軌道に乗り利益創出できて初めて事業成功であり新事業創出と言えます。事業が軌道に乗るには未だ未だ取組課題も多く関係各位の継続した御支援と御協力が不可欠であり引続き宜しくお願い致します。最後に、5年間に渡り多大な支援および御指導、叱咤激励を頂いた文部科学省、相澤アドバイザーおよびJARECの皆様に深謝申し上げます。また共同運営者である宮城県、御支援を頂いた東北大学植田理事、NICHe長坂センター長、関係者の皆様に深謝申し上げます。

エコシステム形成事業を振り返って

長谷川 史彦

副事業プロデューサー

長谷川 史彦

東北大学 名誉教授
未来科学技術共同研究センター
特別顧問
独立行政法人
製品評価技術基盤機構 理事長

 震災後に各国から受けた東北への復興支援の数々に対する感謝の気持ちを大学としてどんな形でお返し出来るのか、みやぎ復興パークのNICHe研究拠点を訪れた1万人を超える皆様へ我々の復興活動の説明を行う中で、繰り返し問い掛けていました。

 みやぎ復興パークは宮城県庁とソニー㈱との協力により、大学と経済連合会の企画提案を実現する形で震災後半年で迅速に開所し、10年間の活動の中で1000人を超える被災中小企業の雇用を維持することに貢献しました。その活動を進める中で2011年スタート時の大企業と中小企業との新たな協業体制構築には経産省の実用化プログラムが、2012年から5年間の大学と中小企業のイノベーション創出活動には文科省の地域プログラムがご支援いただきました。その文科省地域プログラムでの成果をもとに、2018年から5年間の地域エコシステム構築事業への提案を行い活動してきました。

 私たちが経験した被災直後の生活の中で学んだ生きるために必須なことに対する価値観から得られたライフスタイルを具現化し、システムとして世の中に提供していく事、これが今回の活動を進める上でのモチベーションです。

 大学の活動らしい学術的視点を加えながら、特徴あるLiイオン蓄電池の地産地消システムの構築を進めました。地消システムの部分が未熟ですが、政府の蓄電池産業政策の中で、政府機関と自治体の積極的連携を行いつつ、さらに活動を進めていきます。これまでの文科省関係各位のご支援に深く感謝申し上げます。

ナノ界面技術によるMn系Liフルインターカレーション電池の革新とそれによる近未来ダイバーシティ社会の実現

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